手元の吹き替えはありません

『おーい、応為』場面写真
絵師仲間の善次郎(渓斎英泉)役の高橋海人(高ははしごだか)。画業のシーンは吹き替えなしで撮影された (c)2025「おーい、応為」製作委員会

大森監督とは何度かご一緒していまして、「映適」関係なしに大森組の環境はもともと良好でした。今回も13時間制限のところ、10時間や8時間で終わる日もあったくらいです。

予定より早く帰れることが多かったので、そういう時はせっせと絵の練習に通っていました。先生方にもちょっと迷惑がられたかな?というくらい(笑)。練習は、絵を描くというより真っ直ぐ線を引いたり、決まった模様をひたすら扇型に広げていったり、2本の筆を持って色を塗っていったりの単純作業から始めていただきました。

「まずは基本をしっかりと」という先生方の指導方針だったので、それが良かったですね。ただその基本が実に難しいんです。筆で絵を描くのも初めてですし、撮影が始まる随分前から先生方にお世話になっていましたが、それでも不安でした。別の仕事の移動中とか、絵を描いていない時でも常に筆を持っていた気がします。エレベーターの中で2本の筆をくるくる回したり、迷惑なやつですよね(笑)。とにかく筆の肌触りを違和感なく体に自然と染み込ませておきたかった。

『おーい、応為』場面写真
きょうだいの中でも才能があったお栄は、「応為」という名を授かって絵師として成長していく (c)2025「おーい、応為」製作委員会

長澤まさみさん、高橋海人(高ははしごだか)くんはもともと絵が上手いんですよ。僕も必死に食らいついていくしかなかったです。先生方の指導のおかげで、手元の吹き替えは、誰もやっていません。完成品は別ですが、劇中僕の手元で筆を走らせている絵は全て僕が描いていますし、長澤さんも彼女が描いた作品です。