修羅場体験からの学び

私は老人に、「いま父が何の病気だか分からなくて、借金もあって、兄も病気で大変なのよ」と言った。

すると老人は、「俺も苦労や不幸の修羅場を経験したことがあるが、それによって人生は淡泊ではなく、深みがでた。あんたは学びの連続だ。年を取ったら、病気についても、人生についても、人間についても、深く語れるようになるぞ」と言われた。

あれから30年がたち、その地下通路には、もう誰も座っていない。

私は、駅前のベンチで駅の階段を下りて来る人たちを眺めながら、あの老人の言ったことは正しいと思った。

イメージ(写真提供:Photo AC)

父は発病してから4年後に発症率のごく少ない難病であることが分かった。もし自分や周りの人に父と同じような症状が現れたら、病院のどの科にいけばよいか私には分かる。

先日、私の知り合いの女性が、夫が統合失調症ではないかと電話をかけてきた。私は統合失調症を40年患っていた兄と同居し、兄は70歳を超えると認知症が加わった。同時に母も認知症になったので、彼女の夫は認知症だと思った。本人が嫌がって病院に行かないというので、兄のことで精神科医に聞いた、嫌がっている人を連れて行く方法を伝授したら、病院に連れて行くことができ、やはり認知症だった。

修羅場体験から学んだことは役に立つと思った。二度と同じ体験はしたくないが…。

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