ライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります。今回は、しろぼしさんの父親についてのお話です。「謎の男」だと思っていた父の過去を辿ってみると、戦争の経験が大きく影響していて――
父は東京大空襲で亡くなった両親と妹の位牌を拝まなかった
私は父のことを『謎の男』と思っている。
父は大正7年生まれで、71歳になると体の動きに不調が起こり、あちこちの医院や病院に行き、入院もしたが病名は謎で、ついに寝たきりになった。発症から5年後に神経内科のある大病院に入院し、「進行性核上性麻痺」という難病と診断されたが、治療法がないまま、平成10年4月に79歳で亡くなった。
生きている時は嘘と真実がまぜこぜで、亡くなって27年たつというのに、いまだに父の謎が浮上して、私は、どうなっているのだ?と考えてしまう。
その謎のひとつが、昭和20年3月10日の東京大空襲で死んだ父の両親と妹の位牌だ。父は毎年、お盆には迎え火と送り火をしていたが、僧侶を呼んで拝んでもらったことはない。そもそも父自身が、仏壇を拝んでいるのを、私は見たことがないのだ。