注目すべきは、天皇と上皇の上下関係
上皇は「太上天皇」の略称。現在の上皇陛下の事例でも分かるように、先に皇位にあった方を言います。
皇位を譲られた天皇は詔勅を作成し、「謹んで尊号を上げ、太上天皇と為せ。普くおちこちに告げ、朕の意を知らしめよ」(高倉天皇を上皇とする、安徳天皇の詔勅。『山槐記』治承4年2月27日条)というふうに、内外に布告します。
ここで注目すべきは、天皇と上皇の上下関係です。
普通は天皇は、至上の立場にある存在として、どんなことであっても、自身の決定を「下し」ます。ところが上皇に対してだけは、「尊号を上げ」るのです。
原文では「上尊号」で、「尊号をたてまつり」「尊号をのぼらせ」「尊号をあげて」、どう読むべきか明瞭ではありませんが、ともかく天皇が下、上皇が上、という位置づけになるのです。
現在の天皇・上皇陛下がどう振る舞われているのかは存じ上げませんが、明治維新以前の日本の歴史においては、上皇と天皇が父子(あるいは祖父と孫)の関係にあるとき、天皇は子ども(孫)として上皇にへりくだり、孝養を尽くすのが通例でした。
その関係性が公的な儀式にも反映されました。プライベートな繋がりが、公式の場でも優先されたのです。ですので、当然、政治の実権も天皇ではなく、上皇の手中に掌られました。いわゆる「院政」です。