何事も日本風を好んだ

私の参りました頃には、一脚のテーブルと一個の椅子と、少しの書物と、一着の洋服と、一かさねの日本服くらいの物しかございませんでした。

学校から帰るとすぐに日本服に着替え、座蒲団に座って煙草を吸いました。食事は日本料理で、日本人のように箸で食べていました。何事も日本風を好みまして、万事日本風に日本風にと近づいて参りました。西洋風は嫌いでした。西洋風となると、さも賤しんだように「日本に、こんなに美しい心あります。なぜ、西洋の真似をしますか」という調子でした。これは面白い、美しいとなると、もう夢中になるのでございます。

松江では宴会の席にも度々出ましたし、自宅にも折々学校の先生方を3、4名も招きまして、ご馳走をして、いろいろ昔話や、流行歌を聞いて興じていました。日本服を好みまして、羽織袴で年始の礼にまわり、知事の宅で昔風の式で礼を受けて喜んだこともございました。

※本稿は、『小泉八雲のこわい話・思い出の記』(興陽館)の一部を再編集したものです。

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小泉八雲のこわい話・思い出の記』(著:小泉八雲、小泉セツ(節子)/興陽館)

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小泉セツと八雲がつくった18のこわい話。

セツによる怪談執筆の裏話を書いた『思い出の記』も収録。