採算性が不安視されたが……
当時、この地域の路線バスの運賃は200円であったが、市民アンケートなどにより、当時でも異例の100円という低額の価格設定を行った。逆に、それまでは乗車距離が短い場合でも200円かかるという普通のバスの運賃額が高額であると感じられ、利用を控える人が多かったともいえる。
武蔵野市では、市内で路線バスを運行する関東バス、小田急バス、西武バスに運行委託の打診を行ったところ、関東バスから赤字補填を条件に受け入れの回答があり、その営業エリアである吉祥寺で実現することになった。
自治体が主体的にバスを運行する事例は武蔵野市がはじめてではなかったが、それまでは一般の路線バスと同等か2倍ほどの運賃となっていた。実際の運行は民間のバス会社が免許を取って運行することになるが、バス会社では採算性に不安があって躊躇する様子があったため、武蔵野市は2000万円までの赤字補填を条件とした。実際に運行を開始すると利用状況は好調で、結果的に黒字経営となった。
このムーバスが、都市部でのコミュニティバスの模範例となった。その後、順次路線を増設して、現在は次の7路線9系統を運行している。いずれも100円の均一運賃である。
1号線 吉祥寺東循環 関東バス 1995年11月26日運行開始(以下同)
2号線 吉祥寺北西循環 関東バス 1998年3月8日
3号線 境南 西循環・東循環 小田急バス 2000年11月26日
4号線 三鷹駅北西循環 関東バス 2002年3月23日
5号線 境西循環 小田急バス 2004年11月27日
境・東小金井線 小田急バス 2005年5月29日 小金井市と共同運行
6号線 三鷹・吉祥寺循環 関東バス 2007年3月31日
7号線 境・三鷹循環 小田急バス 2007年3月31日 三鷹市との共同運行
旅客数(全線の合計)は、2013年の221万7000人から2018年度には238万人にまで増加していた。その後、2020年度(令和2年度)には、コロナ禍により150万1000人まで落ち込んだが、2023年度には214万8000人まで回復している。
当初は、黒字経営で、バス会社から市に対して黒字額の一部について寄付金の申し出を受けるまでの好調ぶりであった。その後、2013年度には5688万円の補助金が支出され、その後次第に増加して2019年度には7675万円となっていた。コロナ禍の2020年度にはそれが1億6468万円まで膨らみ、2021年度9072万円、2022年度1億8349万円と推移している。