ツアーバスの事故
このようなツアーバスの市場の拡大と2002年(平成14年)の参入規制の緩和が重なって、小規模の貸切バス会社が増えた。わずかな台数のバスを用意して新規参入し、旅行会社が設定する都市間ツアーバスの下請けをした。
いわば個人企業であるが、仕事量が増えると経営者は自らハンドルを握って寝る間を惜しんで運転した。2人乗務が必要な長距離運行時には家族に手伝わせることもあり、助手は大型二種免許を持たないことが多く、経営者が1人で全行程を運転し、過労が募っていった。安全意識の低い事業者も参入して、重大事故が増加していった。
2012年4月29日、群馬県藤岡市の関越自動車道の上り線で、ツアーバスが居眠り運転のため側壁に衝突して乗客7名が死亡した。
大阪府豊中市のハーヴェストホールディングスという旅行会社が企画・募集したツアーバスで、運行したのは千葉県印西市の陸援隊という貸切バス会社であった。
陸援隊は、主に成田空港発着の中国人の観光客を運んでいたが、この運転士は陸援隊の社員ではなく、必要の都度呼ばれてハンドルを握っていた。
それだけにとどまらず、自分で4台のバスを所有して、陸援隊の名義で営業車のナンバープレートを取得し、無許可で貸切バスの営業をしていたことが判明して、道路運送法違反で摘発され、有罪の判決が下された。陸援隊の社長も名義貸しにより、道路運送法違反として逮捕され、有罪判決を受けている。
この運転士は、自分の所有するバスの運転をするかたわらで、陸援隊からの要請で長距離のツアーバスの運転をしており、睡眠をろくにとらずにハンドルを握って、居眠り運転で事故を起こしたのであった。
ツアーバスの分野で違法行為が横行していることが明らかになり、国が適切に安全規制を行ってこなかったことが問題となった。
この事故に止まらず、小規模の貸切事業者は収益を確保するために無理して旅行会社から受注する傾向があり、運行の安全性が損なわれていた。
ツアーバスをはじめ、貸切バスのたびたびの重大事故の発生から、運転士の労働条件が劣悪だとして、2013年8月、国は「交替運転者配置基準」を改定して、交替運転士が必要な基準を厳格化した。以下の場合、2人乗務が必要となる。
(1)拘束時間が16時間を超える場合
(2)運転時間が2日を平均して1日9時間を超える場合
(3)連続運転時間が4時間を超える場合
(4)運転者1人当たり昼間500km、夜間400kmを超える場合
(5)昼夜走行を行う場合に600kmを超える場合