左から、重松清さん、芦田愛菜さん、伊藤氏貴さん(撮影:木村直軌)
作家・重松清さんをホストに、個性豊かなゲストと語り合う連載「井戸端会議2020」。今回のテーマは「本」。高校国語の教科書から文学作品が減りつつあります。若い人が本を読まなくなったと言われる今、国語教育のこれからを懸念する声も。そこで今回は、明治大学准教授・文芸評論家の伊藤氏貴さんと、大の本好きで、この春、高校1年生になる芦田愛菜さんをゲストに、本を読む楽しさ、文学にふれることの意義を語りあいました。ステイホームの今こそ、本を読んでみませんか? 後編は「理想の国語授業について」から話が広がります(構成=福永妙子 撮影=木村直軌)

〈前編よりつづく

面白さのモノサシは……

重松 高校生となり学ぶ立場として、「こんな国語の授業だったらいいな」というのはありますか。

芦田 伊藤先生のご本、『奇跡の教室』は私も拝読しました。橋本武先生の授業は、1冊の本を教材にしながら、そのときどきで横道に逸れていきます。ステキな授業だと思いました。私も疑問が出てくると、「どういうことかな」と興味が広がり、寄り道して、いろいろなことを知るのが好きですから。

重松 「時間がないから先に進みましょう」ではなく、好奇心を肯定する。ひとつずつ立ち止まることは必要なことですね。

伊藤 とても大事です。

重松 愛菜さんがこれまで読んだなかで、小説以外に興味をもった分野はありますか。

芦田 幼い頃から、科学の実験の本や、人体の不思議に関する図鑑を読むのが好きでした。今も医療ものはけっこう好きです。

重松 伊藤さんが企画された「高校生直木賞」は、なかなか画期的な文学賞ですね。

伊藤 フランスの「高校生ゴンクール賞」を真似たものです。全国の高校生が、その年の直木賞の候補作から自分たちで大賞を決めるもので、昨年が6回目でした。

重松 大人の選考委員が選ぶ「直木賞」の結果と違うのがいい。高校生ならではの視点や、面白さをはかるモノサシがあるのですか?

伊藤 「どういうモノサシで決めるか」ではなく、「どういうモノサシで決めると面白いかを自分たちで決めていく」というのが高校生直木賞のよさです。ストーリー展開の面白さで決めるのか、心理描写なのか、そのときの高校生自身が決めればいい。

重松 何を面白いと思うかは千差万別。ひとりの人間のなかにも、たくさんのモノサシがあります。

伊藤 そうしたことを、読んだ者同士の語り合いのなかで発見できる。学校を超えて、そういう楽しさを知った高校生たちが大学生になり、今度は自主的に「大学生芥川賞」を主催していますよ。

重松 いいですね。年齢によって、本の内容の受け止め方も変わってきます。愛菜さんは今度、高校生になります。小さい頃から親しんできた大切な本の主人公の年齢を追い越すこともあるでしょうね。

芦田 そのことが寂しくて。自分が大人になってしまったんだなと。

重松 まだ15歳なのに?(笑)