じつは、『リア王』には個人的な思い出がありまして。先ほど、小学生のころからシェイクスピアを読んでいたとお話ししましたが、中学2年のとき、文化祭の出し物に『リア王』を選んだんです。家来がいろいろ出てくるからクラス全員が出演できそうだし、ほぼ強制的に「これをやろう!」と。

20分の枠に収まるよう台本を書き、全員に台詞を割り当てて、演出もしました。ちなみに私は、末娘のコーディリア。言い出しっぺの権限でいい役をゲットしたんです。(笑)

「えっ、ここでこんなことが起きるの?」というドラマチックな展開が、子ども心に面白く感じたんでしょうね。その後、人生の経験を積んでくると、いまの年齢ならではの違った視点で作品を捉えることができる。68歳になっても、心のワクワク感は変わりません。

今回、フィリップが上演台本と演出を手がけているのですが、ドキッとさせられる台詞がたくさんあるんです。「あれが老いるってことね」という娘の台詞とか。リアは、老いや孤独、子どもに裏切られたという寂しさや絶望を抱えてさまよう。いまの時代でも起こりうる、普遍的な話だと思います。

老いは誰にとっても切実な課題だけれど、いっぽうで、年を重ねてもやりたいことに取り組んでいる人は、とても素敵だとも感じます。8月まで有吉佐和子さん作の『華岡青洲の妻』に出演していたのですが、共演した波乃久里子さん、さん、長谷川稀世さんのお三方はいずれも79歳。三人集まると「台詞を忘れちゃう」「私たち、ダメねぇ」とちょっとぼやいたり。

肉体や記憶力の衰えがあろうとも舞台に立つ姿を見て、心から尊敬の念を覚えました。先輩方の生き方を間近に見ることができ、本当にありがたかったし、私もみなさんを見習ってこの先もずっと舞台に立ちたい、とあらためて思いました。