階段から認知症の運動神経の伸びしろを学ぶ

母は、運動神経が鈍く、走るのも歩くのも遅く、小学校も高等女学校も体育の成績は最低だった。しかし、80代で認知症になると一変。母の介護認定の調査員が家に来て、「あそこまで歩いてみてください」と言うと、サッと椅子から立ち上がり、素早く仏壇の前まで行った。狭い家なので距離はわずかだが、調査員は、「は、速い」と言い、私の顔を見た。

私は「膝が痛くて歩けないと言っていたのですが、認知症の症状が出てから、膝の痛みを言わなくなり、頭が下がり猫背で速足になり、ご近所の方から、『電柱に頭を激突させていた』という報告がありました」と伝えた。

母は認知症になっても母の役割を忘れず、朝になると2階で寝ている統合失調症の兄を起こそうとした。

ある朝、「ワッ!」という母の声がした。なんと、母が2階の階段の上から落ちて来て、背中を丸めて空中で一回転し、1階の床に両足で着地したのである。もちろん無傷。階段には手すりがついているが、母はいつも掴まないのである。

その後、また母は階段から落ちたが、同じように空中で回転して着地。

3回目は、ヘルパーさんが玄関にいて、私が会社に行こうとしている時だった。階段は玄関の前にあるので、その空中回転と着地を目撃したヘルパーさんは、「す、すごすぎます。お若い頃、体操の選手でいらしたのですか?」と私に聞いた。

私は80代でも認知症でも、運動能力の伸びしろはあることを学んだ。