あっけにとられたような顔をしてハルを見ると、百合川は大きな声で笑った。
「年齢なんてどうにでもなるさ! わたしが通った女学校だって淑女の集まりなんかじゃなかったよ。マリアさまは寛大だからいくらきみが不良娘だろうが、あばずれだろうが、罰なんて与えやしないよ。ほら、どこかの諺であるだろう、いい娘たちは天国へいけるが、お転婆娘たちはどこにでもいけるってね。だいたいこんな夕方から取材にいくところなんてないだろう?」
ハルは、顔を真っ赤にして、絶対無理です、と何度も首を横にふる。急にいま自分がいってしまった言葉が恥ずかしくなってきた。どうして編集部で東京にいたころの通り名までいってしまったんだろう。
「――なあ、ハル。ここは内地の女学校とは違うんだ。わたしの母は学校にいくことを禁じられていたから、蔡(チゥ)家に嫁いで、祖父と父の許しを得て、はじめて公学校に通いはじめた。だから、年齢など気にせずにハルの感性でとらえた女学生たちの姿を描いてほしい。それにきみは色白だし、武術でよく鍛えた体をしているから、十代でも通るだろう」
ハルは百合川から視線を反らして、編集長のほうが絶対向いていますよ、そのままでも女学生にしか見えません、と苦し紛れにいった。
実際、ハルの肩くらいの身長しかない童顔の百合川なら、女学校の制服を着ていてもなんの違和感もなさそうだった。
百合川は、露骨に不満げな顔をした。
「これだけ広く顔を知られている蔡家三姉妹のひとりであるわたしが、また女学校からはじめるとなったら気が狂ったかと思われるぞ。これは編集長命令だ。十月から私立恩寵(おんちょう)高等女学校に編入し、女学生たちの本音をしっかり引きだしてほしい。校長は祖父の友人だから編入手続きはすべてわたしが引き受ける。新年号で取材の成果を見せてくれ。さあ、話はこれで終わりだ」
そういうと、百合川は冷ややかな目でハルを一瞥して、手でもういっていい、と合図した。
