「既成服」と殊更冗談めかしていった玉蘭の予想は的中し、町中の洋服店をさがしても、ずば抜けて背の高いハルに合う制服はなかった。特注の制服ができあがるまで、三日の時間を要した。
制服は、紺色の襟に白い二本の線が入ったセーラー服と、紺の十六ヒダのスカート。
玉蘭に手伝ってもらって、真っ白のスカーフを胸の前で蝶結びにしたとき、ハルは不覚にも胸のときめきを抑えることができなかった。
私立恩寵高等女学校は、家から歩いてわずか五分ほどの距離にあり、通勤途中に女学生たちとすれちがうことも多かったので、ハルは自分の正体がすぐにばれてしまうのではないかということが少し不安だった。
「大丈夫、大丈夫! 制服を着たら、すっかり別人になるの。わたし、髪も切ってあげる!」
自信満々にそういった玉蘭を信頼して髪を切ってもらったことを、ハルはすぐに後悔した。手先が器用で料理も上手な玉蘭のことだから、と思っていたのに玉蘭には髪を切るセンスというものが絶望的なまでに欠けていた。
台中にくる前に銀座の理容室で切ってもらったモダンな髪型を、ハルはときどき自分でハサミを入れながらなんとか保っていたのだが、玉蘭はまるで庭の芝生を刈るように荒々しく切っていき、一通り終わったあと、失礼にも笑いをこらえていた。
人形師が毛髪を節約してつくった市松人形のような斬新なおかっぱ頭。しかし、その髪型を見て職業婦人だと思うひとはいないという意味では、変装としては申し分ないのだろう――。ハルはそう思ってあきらめることにした。
