九條邦子さん(82歳)

国も世代も超えて

草履や小物作りも楽しいが、一番充実感を覚えるのは、大きなイベントの準備を終えた瞬間だという。今年前半は4月に「着物市」、7月に「ゆかたまつり」があり大忙しだった。

「着物を整理して値札をつけ、品物を搬入して、ずらっと並べる。さあ売るぞ、という状態になった時は、それはうれしいですよ。7月のゆかたまつりでは200人近いお客様がいらして、私たちが会場に入れないほど盛況でした。準備は大変だったけれど、誰も文句は言わない。疲れたね、でも楽しかったね、と」

年に1、2度はリサイクル会社の工場や服飾専門学校の見学などの勉強会を開いて、繊維に関する研鑽も怠らない。

「布を有効活用したり、着物の値段を決めたりするためにも、勉強は欠かせません。私も子育てで忙しくなるまでは、着物を着るのを愉しんだりしていました。今思えば、もともとこういうことが好きだったんですね」

「ファイバー」での売り上げは、必要経費をのぞきすべてパキスタンの子どもたちのために寄付。その縁あってパキスタンの人たちとさまざまな交流も行っている。この日、九條さんがつけていたエプロンは、寄付先のパキスタンの子どもたちが手作りしたものだ。また回収作業では地元の中高生もボランティアで大活躍。九條さんの孫が社会勉強も兼ね参加したこともある。

同年代の仲間だけでなく、海外という横の繋がり、孫や子のような若い世代との縦の繋がり。リサイクル活動を通じて世界が放射状に広がっていく。

「古布の再生利用は、昔であれば普通のこと。私たちは特別なことをしているわけではありません。社会活動ではありますが、自分たちの愉しみとしてやっています。それぞれの得意なことができる。仲間がいて居心地がいい。それがここに来る一番の理由かもしれないですね」

経験、知恵、熟練は、巡り巡って世界を広げてもくれる。ここに、年齢を増すごとに豊かに生きられる鍵があるのかもしれない。

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