ひたすら特訓

――出演者の方々に絵の描き方を指導される上で、難しかったことや驚いたことはありますか?

松原さん:驚いたのは出演者の皆さんの練習量ですね。人によって分量は違いますが、絵の稽古は毎回1時間から多い時は2時間ほど。それこそ休憩なしでのひたすら特訓、となります。

最初は筆の持ち方から。浮世絵を描く際には筆を立てる必要があるので、まずその手の形に慣れていただくところから始めます。それから違和感なく線を引く、という段階へ。

なお、初めに絵を描く練習をすることになったのが幼少期の歌麿・唐丸役の渡邉斗翔さんだったんですが、本当に頑張ってくれました。

かなり難しいことに挑戦してくれた上、「唐丸が頑張ったんだから」と現場に広まり、それでいつの間にか他の皆さんも『吹き替えなし』という流れに(笑)。

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)

向井さん:私たち、役者の方から<スパルタ式>と思われているかもしれませんが、実際、ずっと同じ練習を反復でやっていただいています。

ただし本当の意味での筆法は確かにおいそれと身につけるものではありません。なので、演技の負担にならないよう、描く部分を絞った上で、そこの形を集中的に覚えてもらっています。

<艶二郎の絵>などもそうですけど、描き順も全部決めた上で、実際に政演役の古川雄大さんの手で描いていただきました。

松原さん:難しいのは、筆で顔や手を描くということ。色を塗るのはなんとかなっても、線描は本当に難しいので、『べらぼう』以外の作品ではなるべく避けてきたんです。それだけに、線画をすらすらと描くようになった染谷さんの上達ぶりには特に舌を巻きました。