写楽、そして蔦重

――『べらぼう』ではいよいよ写楽が出てくることになりますが、改めてその凄さを感じることはありますか?

松原さん:私は『べらぼう』で版画になる前の<版下絵>を主に担当しましたが、その多くは現代に残っていません。版下絵は墨の線描だけで描くのですが、色の乗った版画とは印象が異なると実感しました。

特に写楽は薄摺りだったり濃摺りだったりといったグラデーションや部分的な誇張の仕組みを取り入れている絵師であって、いろんな人のいろんな思惑や技術が重なって、作品を作り上げていたように感じています。

向井さん:たとえば写楽の初期の作品群は『黒雲母』が背景に使われていますが、あれは下絵の段階で背景を黒く描いているわけではありません。版画特有の表現技法であり、摺師(すりし)の手技によるものです。また、ち密な線の表現は、彫師の技術によるところが大きい。

そして、そもそもどういった企画にしようか、と考えるのは版元の仕事。

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)

今回のドラマで言えば“蔦重”が該当するわけですが、その意味で、世界レベルで評価される歌麿や写楽をプロデュースした彼の力がすさまじかったと言わざるを得ません。

自分も画家として、蔦重から「次はあれを描きなさい」「こんな作品が今ウケています」とアドバイスして欲しいくらい(笑)。