封鎖に関しては、中世のほうがずっと思い切ったものだったようだ。疫病の蔓延を防ぐため感染者専用の病院へ移された病人もいたが、とくに感染が急速に拡大した時期に感染拡大への抑止効果があったのは「家屋閉鎖」。発症してない家人もろとも患者の家を閉鎖する強引なもので、当時でも「残酷で非道な処置」と反感を買った。

こうした措置についてH.F.氏は、「疫病の発生した数箇所の通りで、さっそくその感染家屋を厳重に監視し、患者が死んだとわかるやいなや、ただちにその死体を慎重に埋葬したところ、その通りでは疫病はぴたりとやんでしまったのである」「いったん猖獗(しょうけつ)をきわめてしまうと、その終息の仕方も早いことがわかった。早手廻しに家屋閉鎖といった手段をとったことが、疫病を阻止するのに与って大きな力があったらしいのである」と、記録している。

 

エンターテインメントも禁止に…

外出自粛を徹底し、ウィルスとの接触を阻止した人もいた。

「病気の蔓延を見越した者のなかには、家じゅうの者全部の食糧を充分に貯えて、家の中にひっこんでしまい、まるで生きているのか死んでいるのかわからないくらい、全然世の中から姿をくらまして、疫病がすっかり収まったころ、ひょっこりと元気な姿を現した人間も多かった」

結果としては「この方法が、いろいろな事情で避難することもできず、田舎に適当な疎開先も持たないといった人々にとっては、いちばん有効かつ確実な手段であったことは、疑う余地がない」と高く評価している。これはまるで、長引く外出自粛で私たちのストレスが溜まってきた時に、”Stay at home”の意義を再認識させてくれる助言のようにも思える。

ほかにも、芝居や歌舞音曲、剣術試合などの「雑踏を招くような催物」はいっさい禁止、宴会禁止、酒楼の取り締まりといった決まりごとがあった。人々の心を和ませるはずのエンターテインメントや歓楽街を避けなければならないという悲しみは、数百年前の人たちとも解り合えるもののようだ。

医師や看護者たちの献身に対する感謝の気持ちなど、本書にはほかにも興味深いエピソードが数え切れないほど描かれている。新型コロナウィルスとの戦いが終息するには、まだしばらく時間がかかりそうだ。先人たちの経験を手がかりにして、今を生き抜く手立てをじっくり考えてみてはいかがだろうか。