『ペスト』著:ダニエル・デフォー(中公文庫)より
新型コロナウィルスによる感染が拡大する中で、17世紀に蔓延した「ペスト」に関する書籍が注目を集めている。その中の一冊、ダニエル・デフォーの小説『ペスト』には、現在の日本の状況とも、重なりがあるようで――

つねに病原菌との攻防を続けてきた人類

新型コロナウィルスの感染者が増え続けている。私たちが抱えているのはもはや感染リスクだけではない。「仕事や生活はこの先どうなる?」「離れて暮らす家族や友人と次はいつ会えるのか?」「感染症による孤独な最期をどうすれば避けられるのか?」といった複雑な問題に直面している。

突然、いつ終息するのかわからない疫病に全世界が巻き込まれたのは災難だが、歴史をひもとけば似たような状況はいくらでもあった。1918〜20年に流行したスペイン風邪、1980年にWHOから根絶宣言が出されるまでの天然痘、今もたびたび各地で問題化しているコレラ、チフス、赤痢、結核、梅毒……など、人類はつねに病原菌との攻防を続けている。しかし、感染症に翻弄された先人たちは、少しでも後世の人々の参考になるようにと、その壮絶な体験を様々なかたちで記録に残した。

なかでも、17世紀のジャーナリストであり『ロビンソン・クルーソー』の作者としても著名な作家・ダニエル・デフォーの『ペスト』には、1665年ロンドンでペストが広まり始め、感染のピークを越えるまでの一部始終が、驚くほどリアルに描かれている。

ことの始まりは1664年の晩秋。ロンドンで突然、2人の男が疫病で死んだ。人々は上を下への大騒ぎとなったが、その後数週間にわたって疫病死が報告されなかったため、平穏を取り戻す(実際には疫病死は増えていたが、他の病気による死に紛れこんでいた)。その後、疫病死があったのと同じ界隈で死者が増え続け、人々は不安を募らせたものの、少し死亡者が減ると、ロンドンはまだ健全だとたかをくくった。

そうこうしているうちに、翌年5月の終わりには、手のつけられないほど疫病が市中に蔓延し、おびただしい数の人が亡くなり出した。深刻な事態を直視せざるをえなくなった人々は、いろいろな噂が飛び交う中で、なんとか疫病から逃れようとするが――。