「楽しかったのはやっぱり食事。うちの部屋は塩ちゃんこが多いんですけど、つみれが入っていて美味しいんです」

怪我もスランプも全部がいいこと

日本語は部屋に入ってから覚えました。まずは「すみません」「ありがとうございます」「ごっちゃんです」の3つを覚えるように言われて。

入門していちばんショックを受けたことは、お相撲さんたちの筋肉です。近くで見たらみんな筋肉がハンパなくて、見た目も動きも迫力があるし、ぶつかると硬いんです。そこで、ただの太った人じゃなかったんだ、と衝撃を受けて、「自分、大丈夫かな?」と心配になりました。

あとは、先輩後輩という上下関係に慣れるまでが難しかったです。年は自分より下だけど、入門が先だと先輩として接しなくてはいけない。先輩にイライラさせられても反論できないから、モヤモヤしていた時期もありましたね。

一方、楽しかったのはやっぱり食事。うちの部屋は塩ちゃんこが多いんですけど、つみれが入っていて美味しいんです。でも新弟子は前日に炊いたご飯を食べることが多いので、早く関取になって炊きたてを食べられるように頑張ろう、と思っていました。

当時を振り返ると、つらいことももちろんあったと思うけど、やるべきことが多くて、考えている時間がなかった。朝起きて稽古して、終わったらまわしを干したり、洗濯をしたり、掃除や片付け、雑用をしたり……。忙しくて、つらいと感じる暇がなかったんですね。

それに、今思えば全部が楽しい思い出です。すべてがうまくいくことばかりだったら面白くない。何でも手に入るお金持ちって、心が満たされなくて楽しくないとよく言うじゃないですか。だから悪いことに手を出したりもするんでしょう(笑)。苦しいことがあるからこそ、楽しいと思えます。