エリザベートの父親マックスを演じて
宝塚在団中、私は二度『エリザベート』に出演する機会をいただきました。
大好きでずっと聴いていたエリザベートの音楽。
いざお稽古に入ってみると、聴くのとやるのとでは大違いで、難しい!
細やかな決まりごとに悲鳴をあげそうになりました。
一度目の役は、革命家のツェップス。
ハンガリーの独立運動を支援する地下新聞の発行人で、エリザベートとは敵対する人物でした。
二度目の役は、エリザベートの父親マックス。
あれほど憎いと思っていたエリザベートが、二度目は我が娘となりました。
立場が違えば作品の見え方も違ってきます。
幼少期のエリザベート(愛称・シシィ)が歌う「パパみたいになりたい」。
貴族でありながら自由に生きる父は、エリザベートの求める自由の象徴でした。
パパみたいに誰にも縛られず、風のように自由に生きたいと願っていたエリザベート。
東宝版には晩年のエリザベートが海辺で父の魂と対話をする宝塚にはないシーンがありました。
波音が静かに響く中、父と娘は対話します。
「パパみたいになりたい」と願い続けた人生の果てに、自由を奪われ、心を閉ざしていったエリザベートは静かに呟きます。
「パパみたいになれなかった…」
海辺の静けさとエリザベートの呟きが深く胸に突き刺さりました。
幼少期の無邪気なシシィと父親の場面は、のちの運命の伏線でもあります。
「パパみたいになりたい」と思ってもらえる父でありたい。
そんな思いを込めて丁寧に演じていました。
