ASDの特性

発達障害は、「自閉症スペクトラム障害:ASD(Autism Spectrum Disorder)」(以降ASD)や「注意欠如/多動性障害:ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)」(以降AD HD)などの障害の総称です。近年、「発達障害」という言葉が一般的に浸透してきたことで、高山さんのように社会に出てから初めて「自分は発達障害ではないか」と疑い、精神科を受診する人が増えています。

発達障害は、生まれつき脳機能に偏りがあることで社会生活などで困難を抱えることがありますが、社会人になって初めて発症することはありません。しかし、子どもの頃に発達障害とは診断されなかったグレーゾーンは、社会に出てから発達障害を疑う特性が発覚することがほとんどです。職場の発達障害に関する相談で圧倒的に多いのがASDとADHDの2種類であり、高山さんは精神科でASDの傾向がある(=発達障害グレーゾーン)と言われたとのことでした。なお、ASDは、コミュニケーションやイマジネーション、社会性に問題があり、対人関係が築きにくい、特定のものに強いこだわりを持ちすぎるなどの特性があります。

(写真提供:Photo AC)

高山さんは自分の研究には熱意を持てるけれど、部下の育成には興味を持てず、そのせいでストレスが溜まっているような印象を受けました。優秀な研究者ではあるのですが、その一方で、部下たちのスキルやキャリア、都合を考慮することができません。彼女は、人の話を遮って自分の話をすることが多いですし、遠回しな表現をするのは苦手です。相手の気持ちを想像するイマジネーション力が弱いがゆえに、コミュニケーションも苦手になるのだと思われます。

そのため、自分が簡単にできる仕事ができない部下に対して、「なぜできないの?」と相手の気持ちを考えないまま、ストレートに口に出して問いつめてしまいます。部下の中には、「私、研究者は向いていないのかもしれません」「上司(高山さん)に呆れられているみたいで話しかけにくいです」と言って、退職するか本気で悩んでいる人もいました。

彼女の研究チームにいる事務職の女性社員たちも、高山さんがとても苦手です。なにか報告しようとすると、「結論から言って!」などとキツく言われるため、ジャンケンで負けた人が報告に行くような状況になっているそうです。しかし、高山さんには、他者を傷つけようというような悪気はまったくありません。