二人が泊まった宿、旧中井旅館へ
道の駅琴の浦から車で5分ほどの八橋海岸の近くに二人が泊まった宿、旧中井旅館があるというので行ってみることにした。現在は宿泊施設としては使われていないが佇まいに、趣がある。
宿の裏側に回ると、現在は周辺に民家が立っているが、八雲が訪れた際には、民家がそれほどなかったとすれば、宿の部屋にいながらにして、美しい海を眺めることができたはずだ。
八雲の視線を想像しながら、宿の裏から海岸へと向かう。ポツン、ポツン、と古い家がある。平日の昼間であたりはひっそりとしていた。民家脇の小道を歩く。小道を砂が覆いはじめたその先に、真っ青な日本海が広がっていた。
ああ、美しい……。
少し白波が立っていたけれど、天気もよく、とにかく気持ちがいいことこの上ない。
「八橋は静かできれいです。旅館もどこよりもよい宿です。不思議なことに海では誰も泳いではいません。それで私が水泳をすると町じゅうのひとが来て見物します。
ここでも盆踊りがありません。私は八橋ではとても愉快でした。眠り、食べ、泳ぎ、まったく快適です。逢束では、特別な冒険をしました」
(八橋海水浴場の小泉八雲・セツ来訪記念碑に記された「友人チェンバレン教授宛の手紙」より)
これは、八雲とセツがこの地を訪れたという記念碑に彫られていた文章である。セツと共に、松江の元士族屋敷に転居して2ヶ月後の二人だけの旅であることを考えると、さぞかし楽しい、そして思い出深い時間になったのではないだろうか。
