文房具屋というのは、みんなが想像している以上に、数多くの商品を取り揃えている。机まわりの事務用品にとどまらず、
「なんでもあるんですね」
 とお客さまが驚くようなものも置いている。
「糸ノコギリはありますか?」
「ありますよ」
「ピンポン玉ってあります?」
「ありますよ」
 自転車の空気入れ、なわとび、ジョウロ、手鏡、エッグスタンドなんてものまで、なぜかある。
 店の奥のストックルーム兼納戸を整理していると、段ボール箱の底から得体の知れないものが次々と出てくる。
〈ロビンソン式風速計〉とか、〈空中寝台〉とか──。
「とにかく、父上は偉大でしたよ」
 店を引き継いでからというもの、毎日、そうつぶやいている。
 毎日が勉強に次ぐ勉強だが、療養中の母の介護もあるし、父の域にはとても追いつけない。どうしても、時間が足りないのだ。

 

 食べることがいちばんの喜びだったのに、昼ごはんを食べ忘れていることがある。
 というか、ひとりで店番をしていると、いつ食事をしていいか分からない。昼休みを設けるべきなのだろうが、文房具屋が、「ただいま休憩中」の札をさげているのを見たことがない。
 では、どうしたらいいのか?
 仕方なく、さっと口に入れられる小ぶりのサンドイッチを買っておき、お客さんがいないときを見はからって急いで食べている。
 学生時代の早弁を思い出した。食いしん坊のわたしは、男の子たちと競い合って早弁をしていた。なんだろう? 人目を忍んで、いけないことをしてしまうのを、自分はどこか楽しんでいたように思う。

(何やってるの? わたし)
 と思いながらもゲームに興じる快さがあった。
 そんなことは駄目なんだけど──。
 サンドイッチをこっそり食べながら、自分の駄目さに、(ああ)とため息ばかり出る。

 

 サンドイッチは、隣町の桜川まで自転車で買いに行っている。

 朝早くから開いているのと、わたしのわがままなリクエストに応えてくれるのでありがたい。

〈トロワ〉という店だ。

 その店を知ったのも、十字路の食堂で知り合った常連客のおかげだった。彼はおそらく食堂の最も若い常連で、皆から「リツ君」と呼ばれていた。いまは高校三年生のようだが、小学生の頃から通っているという。