たとえば、ある日のことです。ある認知症の利用者さんが、なぜかボックスティッシュの中身をすべて引っ張り出してしまい、テーブルの上がティッシュで真っ白になっていました。まるで雪が積もったみたいに、ふわふわとティッシュが広がる光景を見ながら、ぼくはため息をこらえていました。

「またか……どうしてこんなことをしてしまうんだろう……」そう思いながら、かがみ込んで、黙々とティッシュを片づけていたときのことです。

ふと顔を上げると、向かいの席にいた別の利用者さんが、ぼくのほうを見て、優しい声で「ありがとね、ご苦労さん」と言ってくださいました。そのたったひと言に、心がふわっと軽くなった気がしました。

すると、ティッシュを広げていた方が、ぱぁっと笑顔になられたのです。その笑顔は、まるで子どものように無邪気で、見ているこちらが自然と笑顔になってしまうようなものでした。

最初は困ったなぁと思っていた出来事が、いつの間にか心がじんわり温まる出来事に変わっていました。