人間はひとりでは生きていけない(写真:stock.adobe.com)
よく人の意見に左右される。頼まれたことを断れない…。こんなことで悩んだことはありませんか。産業医・千葉大学大学院非常勤講師の上谷実礼さんは、現代人が感じる生きづらさに自分と他者とを区別する「バウンダリー(境界線)」が関係していると語ります。今回は上谷さんの著書『心を病む力: 生きづらさから始める人生の再構築』から一部を抜粋して紹介します。

過剰適応はバウンダリー障害によるもの

生きづらさを読み解くキーワードが、「バウンダリー(境界線)」です。
心理学では、自分と他者(社会を含む)を区別する境界が存在すると考えます。境界は、自分の領域を守り、他者の領域を尊重するために存在します。

私たちは環境から切り離されて生きていくことはできません。健全なバウンダリーは、状況や必要性に応じて強弱を変化させたり、他者との距離感を調整したりできる柔軟性のあるものです。
そのことにより、自分を大切にしながら、適度に人や環境からの影響を受けたり、影響を与えたりすることができます。

バウンダリーが健全に機能していると、自分の領域を守るために、他者との適切な距離を取ることができ、また、境界を越えて相手の領域に踏み込むことも避けられます。
コミュニケーションはこのようになります。

「私はこういう考えだけど、あなたの考えはこうなのね。お互いに違うけれど、一緒に協力できることはしていきましょう」
「あなたの頼みはわかりました。でも、今は自分のことで手一杯なんです。手助けできなくてごめんなさい」

一方、不健全なバウンダリーは弱すぎたり、強すぎたりします。どちらも社会から大きな影響を受けているという意味で、社会への過剰適応の現われと言えます。

ひとりでは生きていけない私たち人間は、社会に所属し居場所をつくるために、社会に適応しようとします。社会との境界が健全に機能していなければ、社会から必要以上に影響を受けやすくなり、また、社会への追随、迎合、同化なども起きやすくなります。

逆に、人や社会と距離を取るために、頑丈すぎる境界線を引いてしまうと、環境とほどよく柔軟な関わりを持ちつつ生きていくことが難しくなります。