読経のような声
家の奥に続く廊下の壁一面に、無数のお札が貼られているのだ。
これにはさすがの豊君も玄関先に立ち尽くし、呆然としている。
家の奥からは読経のような声が聞こえ、線香のにおいが鼻を衝く。
ほんとうに帰りたい、と壮亮さんは思った。
にもかかわらず、どういうわけか身体がひとりでに動いて靴を脱いでいる。
周平君のお母さんに導かれるがまま、壮亮さんと豊君は廊下の先へと進んでいった。
一歩足を踏み出すごとに、視界が狭まっていくようである。
廊下を抜け通された居間の壁も、同じようにお札だらけだった。
そこでジュースを供されるのかと思いきや、周平君のお母さんは次の間に通じる襖の前まで歩いていくと、それを一息に開け放った。
十畳ほどの和室に、みっちりと、立錐の余地なく人が立っている。
皆が皆お揃いの経文Tシャツを身につけて、スイカみたいに見えるものを抱えていた。それを大事そうに撫でさすりながら、ぶつぶつと何事かを唱えているのだ。
最初に声を上げたのは豊君だった。
一拍遅れて、壮亮さんの絶叫が続く。