いつか去る時は、ポジティブな理由がいい
「退職させてください」と伝えた日、私は自分の本当の気持ちが理解できていませんでした。あの時の私は、ただ辛くて逃げたかっただけだと思います。
店長から報告を受けた上司が、わざわざ私のために店舗まで足を運んでくれました。
今思えば、「他社でチャレンジしたい」という言葉の奥にある、私の本心を見抜かれていたようでした。
「土井さんが今の苦しい状況とか、何かから逃げたいと思って次のステージに行っても、きっといいスタートは切れないと思う。
どこに行っても同じように苦しい時は来るはずだからね。土井さんがいつかここを去る時は、本当にポジティブに何かにチャレンジしたいと思える時であってほしい」
いただいた言葉は、改めて一年後に退職を決断した時に、本当の意味で理解することになりますが、当時は「辞める」という考えは変わりませんでした。
愛ある言葉も届かないほど、心が硬くなっていたのだと思います。
「考えてみましたが、気持ちは変わりませんでした」と、今日の勤務が終わったら、もう一度伝えようと思って出勤したその日、接客をしながら気持ちがとても軽くなっていることに気づきました。
「辞める」と決めた私は、もう数字やエキスパートとしてのプレッシャーが何もなくなり、昨日までの接客が嘘のように、とても楽しく感じられたのです。
今思えば、「今日売ることではなく、未来を売ること」を大切にしていた私を取り戻せたような日でした。
ただただ、純粋に目の前のお客様に楽しんでいただき、また自分宛にいらしてもらえたら嬉しい。
私の接客をきっかけに、さらにルイ・ヴィトンを好きになってくれたら嬉しい。「この先もずっと繋がり続けるために」と、接客を楽しんでいた頃の自分に戻れたような気がしました。
そして、その日は接客するたび、「次回、土井さんを呼んでもいいですか」「またクリスマスに東京に来るので、その時もお願いできますか」と言ってくださるお客様ばかりでした。
お客様を見送りながら、「私はその時にはもうここにいないんだ」と思うと胸が詰まり、涙が込み上げてきました。
私はこの仕事が本当に好きなんだな、と改めて感じる時間になりました。