まずはやってみよう
Spotifyは当時、月額9.99ユーロですべての楽曲を聴き放題にするというモデルでした。Spotifyを解禁、つまりユニバーサルミュージックが楽曲を提供したとしても、CDの価格やiTunesでアルバムや曲をダウンロード購入してもらう価格に比べても、売上は低いのではないかと考えられていました。
何よりも「音楽は購入して聴くものだ」という考え方が当たり前の時代に、「月額*ドル払えば聴き放題」というのは、2020年代の感覚からは信じられないほど当時の関係者は違和感があったのです。
しかし、当時のユニバーサルミュージックのグローバルのデジタル事業のトップは「これは新しいビジネスモデルになる可能性がある。なぜなら、違法ダウンロードやファイル交換(P2P)に悩まされているのは世界全体の問題だ。その割合は正規市場の約20倍にも至っている(注1)。ストリーミングという新しいビジネスモデルを投入して、違法ダウンロードから少しでも正規市場に転換できれば大きな売上になるはずだ」という見込みを立てたのです。
そしてこう言いました。「まずはやってみよう。そして常にデータを分析してチェックしよう」と。
いまの日本でもジレンマのある状況におかれたとき、散々議論をした挙げ句「石橋を叩いて渡らない」といったことが起こりがちですが、「こういう考え方があるのか」と感銘を受けたことをよく覚えています。そして、データ分析がただの掛け声ではなく、音楽市場ナンバーワンであることも交渉材料としながら、Spotifyと協力して本気でおこなわれたのです。
注1:BBC(2009)“Legal downloads swamped by piracy”
https://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/7832396.stm
