(写真提供:Photo AC)
近年、YOASOBIやAdoに代表されるように、J-POPが世界的な注目を集めています。「この動きを支えているのは、ストリーミングサービスやYouTube、SNSやショート動画、そしてそれらに組み込まれたアルゴリズムの力です」と語るのは、長年音楽業界に長く携わってきたParadeAll株式会社代表取締役の鈴木貴歩さんです。そこで今回は、鈴木さんの著書『音楽ビジネス』から一部を抜粋し、音楽ビジネスについてご紹介します。

Spotifyが海賊版との戦いに終止符を打った

Spotifyがスウェーデンでサービスを開始した翌年の2009年7月に、私はユニバーサルミュージックにデジタル本部長として入社しました。デジタルビジネスの戦略、事業開発を統括する役割を任され、9月には海外事業の本部があるロンドンで各国のデジタル事業責任者が集まる会議に参加しています。その会議でも、Spotifyが中心的な議題に挙がり、スウェーデンをはじめとした北欧でかなり良い成績を残していることが共有されました。

2010年頃の音楽業界は、違法ダウンロードの流通に悩まされていました。

当時は海賊版の影響でCDが売れなくなり、一方で世界的にアップルのiTunesに人気が集まり定着しはじめるも、CDの売上減少を補うまでには至っていませんでした。海賊版のファイル共有サイトから入手したMP3データを、iPodなどのハードディスク音楽プレイヤーに入れて音楽を聴く、というスタイルが拡がりつつあるという危機感もその背景にありました。

日本では2006年からファイル交換サービスから正規の音楽サービスへと進化したNapsterが、タワーレコードと合弁会社をつくって音楽配信サービスを開始していましたが、Spotifyが持つ利便性を備えるには至らず2010年にサービスを終了しています。

そのような状況を背景に「どうもSpotifyが違法ダウンロードを駆逐しはじめているようだ」と、当時世界3位だったイギリスの音楽市場にSpotifyの参入を認めるかどうかという議論になったのです。