私が目指している「嫉妬しない人」の正体
ここで、ある社会学者の名前が脳裏をよぎる。 アメリカの社会学者、デヴィッド・リースマンだ。
以前、この『嫉妬マニア』で対談させていただいた山本圭教授の著書『嫉妬論』(光文社新書)にも書かれている。リースマンは、嫉妬という社会の病に対抗する生き方として「自律」を提唱し、「真正さ」を持つことの重要性を説いた。
現代人の多くは「他人指向型」に支配されていて、頭に高性能な「レーダー」をつけている。他人が何を考え、何が流行り、誰が賞賛されているか、その信号を絶えず受信し、自分の行動を決めるのだ。
SNSなんてまさにこのレーダーの増幅装置だ。「いいね」の数やフォロワー数という信号に一喜一憂し、他人の信号が自分より強いと嫉妬に狂う。
Sさんは、このレーダーの電源をオフにしている(あるいは感度を下げている)ということだろう。
だが、リースマンが示したもう一つのタイプ「内部指向型」は違う。彼らはレーダーではなく、心の中に「ジャイロスコープ(羅針盤)」を持っている。
他人の信号は関係なく、自分自身の信念だけを頼りに進む羅針盤を持っていれば、どんな荒波の中でも進むべき方向を見失わない。他人がどの方角にいようと関係ない。自分の羅針盤が北を指していれば、迷わず北へ進むだけだ。
リースマンは社会の同調圧力に屈せず、かといって社会から孤立して仙人のようになるわけでもなく、自分の羅針盤を持って社会の中で生きるあり方を「自律」と呼び、それこそが人間としての「真正さ」だと説いた。
今のところ私が目指している「嫉妬しない人」の正体は、これだ。自分の価値を決める基準が自分の中にしかなく、他人が気にならない状態になりたい。
Sさんは他人との競争を避け、諦めることで嫉妬を消した。しかし私が欲しいのは「逃げ」でも「諦め」でもない。この嫉妬まみれの社会の中で、他人の成功というノイズに惑わされず、自分の人生を生きるという「真正さ」を手に入れたいのだ。
……まあ、言うのは簡単だ。
私の頭上のレーダーは、今日も今日とて「あの人の新刊が重版した」という電波を最高感度でキャッチしてしまっているし、なんならSさんが東京で「今日はあったかいな」で満たされていることも、めちゃくちゃ羨ましい。
嫉妬をしないなんて、私には到底無理そうだ。
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著者・斉藤ナミさんと婦人公論.jp池松潤が日常に潜む「嫉妬をしない人」を徹底解剖。世界史を動かした嫉妬の正体や、AIに感情を教える「嫉妬AI辞書」まで語り尽くしました。
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