歌を仕込まれたのは、劇団四季に入ってからだね。それでも、最初の『イエス・キリスト=スーパースター』(1973年)からしばらくは、歌っても多くて3曲くらいまで。『エビータ』(82年)で10曲くらいになったのかな。

大きかったのは、『オペラ座の怪人』(88年)だよね。このファントム役は、裏声とかオクターブ上の音とか、今まで出したことのない声を使わなくちゃいけないから、クラシックの発声法の訓練を受けないと乗り切れなかったの。

しかも、オーディションに受かったのは、その訓練を受ける前。演出家のハロルド・プリンスは、《声》じゃなく《目》で僕を選んでくれた。

浅利(慶太)さんから「市村はファントムのキー(音域)が出ないよ」と言われても、彼は「稽古で出させる」と言ったんだ。そして本当に出るようになった。

四季にいた北川潤さんが僕のボイストレーナーになってくれて、本番までの半年間、ファントムの歌を歌うためにマンツーマンでひたすら稽古してくださった。

声を長く伸ばすロングトーンのために、いっぱい息を溜めなくちゃいけないから胸郭が広がり、浅利さんには「胸板が厚くなったな」と言われました。体が楽器とはよく言うけれど、ファントムを演じたことで体と声が大幅に変わったんです。