レパートリーは三百から四百曲も

はじめにまず口上を述べる。たいていはお店のPRだが、戦前の口上を伝承している〆丸親方のはトンチがきいていておもしろい。

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トザイ、トーザイ

東西とは昔よりひがしにし

南北とはみなみきた

来たり来たり来たわいな

来たといってもお客じゃなし

へそこナスビの味自慢

やまが育ちの藪うぐいすも

上手がきたって下手しれず

下手がきたって上手がしれる

さぁ我々チンドン屋のいうことを

聞くもなにかのご縁じゃと

よろしくお聞きくださいませ

(店の宣伝)

というわけでよろしくご来店のほど

あつくあつく御願い

上げ下げ横縦十文字にお願い申し上げます

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そして、音楽スタート。選曲は楽士がするのだが、最初の曲はたいてい『たけす』と決まっている。これは竹雀の略で寄席の地囃子としてもよく知られているが、チンドン屋のテーマソングでもあるにぎやかな曲。これが鳴りだすと、おっ、チンドン屋がきたな、とわかる。

昭和絶滅危惧職業(著:秋山真志/中央公論新社)

パチンコ屋の新装開店のときはもちろん『軍艦マーチ』。そのほか『きぬた』、『千鳥』、『米洗い』など寄席の出囃子、地囃子も多く、サーカスのジンタ『美しき天然』は定番。股旅モノ、民謡、歌謡曲、ジャズ、ビートルズ、カーペンターズ、テレビドラマの主題歌、アニメソング何でもござれ。三百から四百曲のレパートリーがないともたない。

なかにはアニメ好きの楽士もいて、『サザエさん』の火曜日バージョンと日曜日バージョンを吹きわけるなどのこだわりも。幼稚園の前を通れば、園児全員が門に集まってくる。『となりのトトロ』を演奏するとみんなで大合唱となる。

ちなみに「安室奈美恵が好きな楽士もいるが、チンドン屋にはあまり合わない」とか。お客さんによっては「店のイメージと合わない」などの理由で演歌がNGの場合もある。