前日には必ず一人ひとりに電話確認を
昔は楽士が一番エラくて、よくイジメられたという古い親方のおかみさんの話によれば―。意地悪なラッパ吹きがいて、豆腐屋のラッパみたいなプーという音しか出してくれない。一日中、その間抜けた音で吹かれて参ったおかみさんはその晩、酒を届けてやっと機嫌を直してもらったそうだ。
全体の指示をするのは親方であるチンドン太鼓の役割。信号や学校、交番の前などにさしかかると演奏をスローテンポにしたり、あるいは止めたりする。演奏開始は「打ち込み」という短い叩き方が合図。救急車や葬式のときは必ず止める。橋の上では太鼓を叩かない。「橋の上で叩くと雨が降る」という昔からの迷信からきているそうだ。
お客さんはパチンコ屋、スーパー銭湯、焼き肉屋、レストラン、ブティック、商店街、地方のお祭り等々。都内と関東近郊の仕事が大半だが、一番遠くは種子島に健康グッズの宣伝をしに行ったこともある。変わったところでは、死刑廃止のパレードや共産党のパレード。「消費税を下げろ」という行進には『東京音頭』を使った。
お客の反応も十人十色。もともと出ないパチンコ屋だと宣伝するとかえって逆効果の場合もある。「あんたにススメられて行ったのに出なかった」という苦情をいわれたことも。
ひと通り街を流して店にもどってくるとお客の反応は一目瞭然。パチンコ屋が大入り満員だったり、古着屋やケーキ屋が午前中で売り切れになったり等々。
大体、お店の開店時間に合わせて十時頃からスタートし、十六時頃に終わる仕事が多い。拘束六時間、そのなかに食事休憩一時間と休憩三十分が含まれる。業界用語でギャラのことを、「手間」というが、堀田さんから「狭い業界なので、具体的な金額は書かないでほしい」といわれてしまった。ぼくはその額を聞いて「そんなに高くない、むしろ安いぐらいでは」と思った。
「学生時代は遅刻ばかりしていたのに、チンドン屋になって時間にはすごく厳しくなりました(笑)。とにかく朝、約束の時間に人が集まっていないというのが一番怖いんです。前日には必ず一人ひとりに電話確認しています」