二十一世紀のチンドン屋は古くて、新しい職業に
現在、堀田さんがいつも仕事をしている人たちは七、八人ぐらい。「私はメンバーにこだわる」とのこと。チンドンに対する基本的な考え方が似ている、チンドンに愛情を持っている人たち。それさえクリアしていればあとは「自由に楽しく、朗らかに」。
「古いチンドンが好きなんです。私が初めて出会ったチンドン屋のみなさんはベテランぞろい。彼らのチンドン囃子を聞いたとき、その親方たちが生きてきた時代の息吹のようなものを音で感じて、感動しました。時代がちがうから無理かもしれませんが、できれば昔のチンドンを再現したい。技術だけでなく、イメージが広がるような演奏をして、晴れ晴れとした気持ちで仕事を終えたいですね。年々歳々、ベテランたちが亡くなりつつあります。五朗八親方も一昨年、六十八歳で亡くなりました。この間、手を振って別れた人が、つぎに聞いたら亡くなっていたとか。みなさんチンドンで飯を食ってきた、オレが仕事に出ないといけない、生涯現役という気持ちを持ってそれを貫こうとしています。私もチンドンひと筋で生きていきたいと思っています」
三年ほど前、武蔵小金井のパチンコ屋のチンドンをしたとき、通りの向こう側の喫茶店からおじいさんがジッと堀田さんを見つめていることに気が付いた。おじいさんはツカツカと通りを渡って「ご祝儀」といって紙包みを差しだした。
堀田さんが礼をいうと、おじいさんは微笑みながら去っていった。なかを開けると、一万円札が入っていて、喫茶店のナプキンらしき紙にボールペンでこう書かれていた。
古い日本の姿をまた再び見ることができて、泣けました。
堀田さんはときどき、仕事で老人ホームを訪れることがある。懐メロをリアルタイムで聴いているお年寄りのなかで寝たきりの人たちがいく人も涙を流していた。
年寄りはチンドン屋に郷愁をおぼえ、若い人は新鮮さを感じる。二十一世紀のチンドン屋は古くて、新しい職業になりつつあるようだ。まさしく温故知新、チンドン屋の未来には光明が差している。
※本稿は『昭和絶滅危惧職業』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『昭和絶滅危惧職業』(著:秋山 真志/中央公論新社)
飴細工師・俗曲師・銭湯絵師・幇間・見世物師・蝋人形師・チンドン屋・流し。時代の流れとともに「職業」も変遷と興亡を繰り返してきた。昭和から平成、そして令和へと移ろうなかで、今や風前の灯となった職業もある。そんな消えつつある職業とそれに従事する人々(職人たち)。今に至るまで生き延びてきた理由、それでも続ける意味はどこにあるのか。
絶滅寸前の職業に携わる人に取材し、生きること、働くこと、職業観を問うルポルタージュ。昭和100年、戦後80年の機会に、あらためて、これらの職業(人)の記録をとどめておきたい。本書は、『職業外伝』(正続)から、8の職業(人)を選り抜き、後日談、追加取材を盛り込んで再編集したものです。




