正直な顔
滞在中に訪れた多くの素晴らしい場所は、その後の紛争によってどこも無残なありさまと化してしまったが、夫は今でもシリアを思い出して懐かしんでいる。かたや、エジプトには二度と行きたくないらしい。
古代からエジプトでは、ファラオのように財力のある権力者が埋葬される墓は常に盗掘の危機に晒され、早いものだと埋葬直後から金目の副葬品類は失われていたという。人間の力と可能性の結集とも言える壮大なエジプト文明の、煌びやかな歴史の裏側には、人間という生物の貪欲さや業の軌跡も刻み込まれている。
墓の盗掘と現代のバクシーシとは関係ないかもしれないが、生きることへのしたたかさをあえて隠そうともしない彼らの、正直とも言える態度や佇まいには、人間という存在をきれいごとで片付けようとはしない現実が生々しくあらわれている。

