24年経った今

24年前と変わらず、旧市街へ行くと空き地にはゴミが山積みになり、道路は交通ルールなど無視した車で溢れかえっていた。

巨費を投じて作られた立派な博物館も完成し、観光客たちは過去の威光にたくさんのお金を落としていくが、路地裏へ入れば、そこには何をするでもなく、何を求めるでもなく、眉間に深い皺を刻んだまま、地面に座り込んで物思いに耽っている人々の姿がある。

彼らの表情は、周りに自分をどう見せたいか、などという理想や虚勢から完全に乖離している。たとえ笑っていても、考えごとをしていても、この世で生きていくことの辛さと厳しさがどうしても滲み出てしまう。

しかし、そうした彼らの顔は、24年経った今では決して嫌なものではなくなっていた。自分もそれなりに年を取ったという証しかもしれない。

普段の私たちがどれだけ都合のいいものしか見ようとせずに生きているのか、いかに人間のありのままを封印して過ごしているのか、久々にカイロを歩きながら、そんなことを痛感した。

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