“携帯できる家”
私は。ぬいぐるみのことを、“携帯できる家”だって思っています。
普通のひとは、自分が生まれ育った家が、大体、好きだよね。(すみません、自分の家が嫌いなひともいるってこと、判ってはいます。けれど、そういう方は比較的少数派だと思うので、この場合、話題から外させていただきます。)そして、家には、“匂い”があります。たとえどんなに掃除が行き届いている家であっても、何となく、“そのひとの家の匂い”っていうものがある。そしてこれは、家によって、どこがどうって指摘できないんですけれど、まったく違う。これはもう、“悪臭”とか“いい匂い”なんてものとは違う……その家にだけ、ある、特別な“匂い”。
そして……これは、この特別な匂いは、その家に住んでいるひとが嗅ぐと安心できる匂い……なんじゃないでしょうか。
でも、家って、普通携帯できるものではないんです。
ところが。ぬいぐるみは、ほぼ、携帯できます。(実は、正確を心がけるのなら……携帯できないサイズのぬいさんもいます。うちの最大のぬいさん、ネプチューンという鯨は、全長二メートル半、ひれをいれた最大横幅一メートル五十で……うちのソファより大きいです。まあ、重さはそんなにはないんですが、それでも、私では持ち上げるのがしんどい重さ。まあ、ウェイトリフティングやってる方なら、ひょいって持ち上げることはできると思うんですが……とはいえ、このサイズのものを、携帯して歩くのは、どんなスポーツ選手でも、かなり不可能に近いのではないかと。)
そして、携帯できるという特徴を持ったぬいぐるみには、もう一つ、自分がいる場所の匂いを吸ってしまう、自分がいる場所の匂いになってしまうという特徴があって……ぬいさんがいて、そのぬいさんを鼻の下に押しつけ、その匂いを嗅ぐと……それは、ああ、“うちの匂い”だ。
これ、つまり。
携帯できる“家”ですよね。
私が旅行する時、ぬいさんを必ず携帯しているのは、これが理由です。
まあ、私は、実は自分の実家がそんなに好きではなかったのですが、その反動でか、結婚してからは、自分の家が、もう、大好き。好きすぎて好きすぎて、できることならずーっと家にいたいって思っちゃって、実際に結婚してからずっと、今でも、ずーっとずっと家にいて、旦那に“家虫”って呼ばれるようになってしまいました。だから、仕事でどこかに行く時、誰かぬいさんがついてきてくれると、これはもう、本当に嬉しい。
だって、ぬいさんに顔を埋めて、あるいはぬいさんを鼻の下にあてて、そこで匂いを嗅ぐと。そこにあるのは、大好きな、安心な、私の家の匂いなんだもん。
