新宿で「ブス」と言われて――

そんなところでこの歌でございます。

新宿で「ブス」と呼ばれる。新宿という刹那的かつ刺激的な街と、そこで「ブス」と言われるという組み合わせが壮絶でございますね。いかにもありそう。そんな激しい刺激を持ち合わせているのが新宿でございます。しかも相手は知らない相手。お嬢様が美人だろうがブスだろうが関係のない間柄なのに、「ブス」と言ってしまう、その余裕のなさや苛立ちも含めて都市性を感じさせるお歌でございます。


ポイントはこの「言われぬ」という文語文体の締め方。「言われた」というニュアンスですが。強い言い切りによって、言われたことをどこかで腹を括って肯定するような、そんな力強い怒りとご自身へのプライドが垣間見える結句でございます。

また、「美しい破裂音」というのもポイントでございますね。実はこの歌集ではピアノ演奏を取り扱った短歌も多く、川口さまは音楽家だということがわかります。「ブス」と呼ばれつつ、その響きが「美しい破裂音」ということも忘れていない。音楽的にその「ブス」の響きが美しい、と思う感覚も持ちながら、同時にカチンともきている。自身のバックボーンがあると、ネガティブな出来事にもささやかなポジティブな感覚が入り混じることを教えていただける短歌です。


川口慈子さまは短歌結社「かりんの会」所属。この歌の収録歌集は『世界はこの体一つ分』でございます。なんと体当たりなタイトルでございましょう。男性に多いと言われている世界観や非日常を美学とする「セカイ系」の反対に、世界は自分自身だという感覚は、どちらかというと女性に多い感覚かもしれません。小説家の川上未映子さんのエッセイにも『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』がございますね。世界を自分の体のように引き受ける。この感覚の力強さに感嘆いたします。