「母と過ごす時間は私にとって、とても貴重。やはり、私たちは母に生きていてほしいのね」(あずささん)

一斉メールで情報を共有

あずさ 日替わりで行く4人の間のコミュニケーションは、主にメール。「今日のママの様子はこうだった」と送信すると、ほかの3人から返事が来るの。

響子 返事が来ないと「忙しいのかな」と思う。母の状態が細かくわかるし、できなかったことの申し送りもできる。私と弟は用件だけの電報みたいな文面が多いけれど、あずさのメールは母の様子が手に取るようにわかるほど細かくて丁寧。82歳の叔母のは、ユーモアたっぷりで文学的だから読み応えがある。

あずさ 今年は桜がきれいな日に主治医の先生から散歩の許可を得て、母とお花見ができたのよね。それを写真つきで送ったら、「自分も見せてあげたいと思っていた」「連れて行ってあげてくれてありがとう」と返信をもらって、とても嬉しかったのよ。

響子 いつも母が楽しみにしてくれているのが、私たちの朗読。若い頃から読書家だったから始めたの。

あずさ いまは「これが読みたい」と、リクエストされることも。

響子 私が一番いいと思ったのは、母が昔、私たちに読んでくれた童話集。実家にある本を弟が持ってきてくれて。宮沢賢治の『よだかの星』、浜田廣介の『泣いた赤鬼』は、必ず母は最後に泣いてしまうのだけど、「また読んでね」と言われる。

あずさ 小川未明の『牛女』を読んだとき、母が「私と同じ」とつぶやいたのよね。可愛がって育てた息子のことを案じて、死んだ後も故郷の雪山の山腹に姿を見せる母親のお話。

響子 それをメールに書いたら弟が「読んでみたいから本がどこにあるか教えて」と言ってきて。息子の立場で読むときつい話だから、読んだ弟は「すごくつらかった」と。だから、「母親というのは黙っていてもいつも子どものことを考えているもんよ」とメールしてあげたの。こんなに頻繁にやり取りをするのも、介護が始まってから。きょうだいの絆が深まったことを感じるわね。

あずさ 東日本大震災の復興支援のため、二人で朗読劇の舞台に立つようになったのも3年前から。

響子 2年前には、初めての二人芝居もやったわね。親への感謝を示すのに、同じ仕事をしている私たちだからできることは何だろうと考え、温めてきた長年の夢だった。

あずさ 父に観せることは叶わなかったけれど、母は病院から外出許可をもらい、弟がつきそって介護タクシーで観に来ることができたの。

響子 終演後に母を知る人たちが車椅子の周りに集まって、再会を喜んでくれた。「あら、主役は私たちなんですけど」と思ったくらい。(笑)

あずさ 母は昔から優しくて独特のユーモアがある人気者だったもの。いまでも「今日来た私は誰?」と聞くと、わざと叔母や姉の名前を答え、反応を見て笑ってるのよ。

響子 「誰と誰が結婚するらしいけど、どう思う」と聞くと、「やめたほうがいい」とピシャリ。これが、けっこう的確なんだから。(笑)

あずさ そう、アドバイスをもらうこともあるわ。母と過ごす時間は私にとって、とても貴重。やはり、私たちは母に生きていてほしいのね。

響子 私も母のそばにいるほうが精神状態がいい。入院した頃は、家に帰ってから、病院に母が一人でいることを思うとつらくて唸っていたもの。でも、私が苦しむのを母は喜ばないだろうと考えるようになってきたわ。