「私はもともと粗忽者だけど、緻密なあなたがそんな失敗をするなんて、よっぽど疲労が溜まっているんだと思った。何より驚いたのは、姉の私に逆らったこと!(笑)」(響子さん)

初めての姉妹ゲンカ

あずさ 翌日、地域のケアマネジャーを決め、介護ベッドや入浴サービスの手続きなどをしてもらった。それでも、母の食事作りやケアに明け暮れ、私の体重は1ヵ月で4キロ減。

響子 私も泊まり込みで、母の隣に布団を敷いて。本当に大変だったわ。

あずさ わが家は2階が生活空間。1階にいる母が不安がって日に何十回もチャイムで呼ぶ。そのたびに下りていき、笑顔で応えるの。

響子 寝不足のひどい顔で仕事へ行ったこともあった。

あずさ 疲れて注意力が散漫になり、お鍋を何回も焦がしたし、通ってくれた弟も含め、3人とも車をぶつけてしまって。(笑)

響子 私はもともと粗忽者だけど、緻密なあなたがそんな失敗をするなんて、よっぽど疲労が溜まっているんだと思った。何より驚いたのは、姉の私に逆らったこと!(笑)

あずさ ケンカしたのは初めてじゃなかった?

響子 でもあなたの機転に助けられたわ。久しぶりに外へ食事に出ようと提案して、母に話してくれたわね。母も「行ってらっしゃい」と送り出してくれて。正味45分くらいだったけれど、大好きなレストランで食事しながら二人で話をしたら、だいぶ楽になった。

あずさ 母がこちらを気遣ってくれるまでに意識が回復してきたことも、嬉しかったわね。

響子 そういえばあの頃、母の隣で私が一人芝居の『夢十夜』の台本を読んでいたら、聞いていた母が泣いたり噴き出したり。ちゃんとわかって反応しているのだと感動したのよ。

あずさ 心身ともに過酷な毎日だったけれど、母は介助されて立つことも、自分で食事をとることもできるようになった。日々のささやかな回復が、大きな喜びだったわね。