そこから40年経ち、衣裳の点数がありましたので、みなさまに見ていただこうということになりました。でも舞台では、刺繍に一部ミシンが使われている衣裳もありましたから、それでは展示するのは恥ずかしいと思い、手刺繍で作り直したりしたのです。

養父からは「衣裳を汚す役者はダメだ。どんな衣裳も美しく着なさい」と教えられたこともありますが、自前で作ると愛着も湧きますから、衣裳を大事にするようになります。

そんなわけで、歌舞伎の衣裳や舞台装置も昔とは違ってきていますし、歌舞伎を取り巻く環境も変化してきました。今はエンターテインメントを楽しむツールがたくさんあり、実演の場に足を運ぶことが少なくなっているようです。

映画もスマホで2倍速で観ることができる時代になりました。演じている人間の体温や呼吸を実(じつ)として、心と身体で受け止める機会が減っているのだと思います。

伝統の継承にも、さまざまな方法が生まれてきています。たとえば、私はもともと歌舞伎の舞台を映像コンテンツ化することに反対していたのです。でも、観る人が感動できるような完成度の高いものならいいと思い、多数のカメラで舞台を撮影して臨場感も得られる「シネマ歌舞伎」の監修にかかわってきました。

今となっては、歌舞伎座さよなら公演で、勘三郎さんと共演した『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』や最後に共演した三島由紀夫作『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』など貴重な演目を、シネマ歌舞伎作品として残すことができて、本当によかったと思っています。

そんな時代にあって、歌舞伎の世界を取り上げた映画『国宝』は、3時間近い映画なのに、多くの方が映画館に足を運ばれました。あの映画を観て、日本の古典というもの、あるいは、自分が生まれた国の伝統文化がどういうものなのか、などと感じてくれたのではないかと思っています。

歌舞伎以外の活動としては、歌うことを続けています。25年11月にカバーアルバム『バラ色の人生』を出しました。シャンソンの名曲や井上陽水さん、カルメン・マキさんの歌など、私にとって忘れられない大事な曲をラインナップしました。

歌舞伎以外の舞台プロデュースの仕事などもあり、忙しくもあるのですが、歌うことは大好きです(笑)。発声のための延長でもありますが、できるだけ楽しむようにしています。