世界の出来事にも目を向けつつ
仕事の合間を縫って、なによりも大事にしているのは旅をする時間。これまでイタリアやフランスの劇場に行ったり、ブロードウェイの舞台を観るためにニューヨークに行ったりしましたが、昨年はギリシャを訪れました。
ギリシャで紀元前4世紀に建設されたエピダウロスの円形劇場の真ん中に立ったときのこと。「ハッ、ハッ」と息を吐くと、自分の背後までちゃんと響くので驚きました。当時の人たちが音響をどう考えていたのかはわかりませんが、本当に見事な空間でした。
古代の円形劇場にたたずみながら、2400年も前から「演じること」は宗教的ななにかともつながっていたのかもしれない、と感じました。
芸術とは、「生と死」を考えて描くものだとも思っています。フランスの作家で戯曲も書いているジャン・ジュネは、「演劇は、墓地から生まれる」と言ったそうです。
日本の能楽も、登場するのはほとんどが死者でもあります。古代から「演じる人」というのは、「生」と「死」の間(あわい)に立つ巫女(みこ)的な存在だったと思うのです。だからこそ、舞台には人の気持ちを浄化する力があるのではないでしょうか。
ギリシャでその思いを深めましたが、海外の文化や芸術を吸収して、自国の文化を見直すと、新たなものが見えてきます。そういうことを時々繰り返さないと、自国のよさがわからなくなる気がするのです。
芸術、あるいは文化的な創造をするには、世界や社会の出来事にも目を向けていなければいけないと考えています。そんなこともあって、テレビでよくドキュメンタリー番組を観るんです。たとえば1995年から続いているNHKの『映像の世紀』や、経済教養ドキュメントの『欲望の資本主義』など。
正直、戦争のドキュメンタリーを見るのはつらいですが、事実を知るために見なくてはならないこともあるのです。もちろんマリア・カラスやグレタ・ガルボ、ヴィヴィアン・リーなど舞台や銀幕のスターたち、ゴッホなど芸術家のドキュメンタリーも大好きです。