初夏のテラス。岩手山が正面に見える。(写真提供:『今だからわかること 84歳になって』/KADOKAWA)

ブリューゲルの世界から

2025年初夏。今日も私は、リビングのソファに腰掛けて、正面に岩手山(いわてさん)、南東に姫神山(ひめかみさん)、北に七時雨山(ななしぐれやま)へと連なる美しい山並みを、飽きずに眺めて過ごしています。

朝日に洗われて輝く山肌、昇ってゆく太陽に活気づく田んぼの緑や家々の屋根。動いてゆく雲を目で追いながら、窓から入ってくる風に身を委ねています。そのうち太陽は傾いて、茜色の空に影を落とす岩手山も、やがて闇へと沈んでゆき、静かな夜が訪れます。

84歳になって、こんな日々が訪れるとは、本当に不思議なこと。

友人に連れられて八幡平を初めて訪れた時、その雄大な美しさに息をのみました。初冬の、ちょうど雪化粧をした頃で、岩手山麓の田んぼや畑は雪原となって広がり、夕暮れの光を反射して、一面キラキラと輝いていたのです。

ブリューゲルの「雪中の狩人」──雪山を背景に狩人が犬を引き連れて歩くあの情景が、そっくり目の前に広がっていたのですから。東京に帰って母に伝えると、母もぜひ見てみたいと言い出して、ついにはこの地に父母(舟越保武・道子)の家を建てることになりました。35年ほど前のことです。