私がここへ越して来て、15年。岩手山麓の風景にも、毎年、何かしら変化は起こっています。ある年には、片隅に咲いていたムスカリが群れ広がって、一帯を紫色に染めました。昨年は、猛暑でカメムシが大発生。家中のあちこちにいて、追い出すのに手を焼きました。
そして、引っ越し祝いに友人が庭の一角に植えてくれたドイツトウヒは、1mほどの高さでしたが、今は見上げるほどの大木に成長しています。
気づくことも増えました。ここから見える集落は、太陽の位置の変化で家々の佇まいも変化するのです。それに満月の夜は、曇っていても空全体がほのかに明るいのです。なんだか見守られているようです。
そして岩手山の紅葉は眩いほどだけれど、場所で色彩が違います。たぶん、木の種類が違うのだと思います。それに冬には、上の窓からオリオン座が見えるのです。そういうことは、長く住んでみなければ気づかないことです。
先日、外を眺めていて、ふと頭に浮かんだのが、グランマ・モーゼスでした。あら、これって、彼女の世界じゃないの?あの絵の世界にそっくりなのです。彼女が、身の回りの情景を絵に描いて、世に知られるようになったのは、80歳を過ぎようとする頃でした。
※本稿は、『今だからわかること 84歳になって』(末盛千枝子:著/KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
『今だからわかること 84歳になって』(著:末盛千枝子/KADOKAWA)
年を重ねると物事への理解が深くなって、これまでの経験が「そういうことだったのか」と思えて楽になるのよ――。
上皇后美智子様の長年の親友で、彫刻家・舟越保武の長女。舟越桂、直木の姉。名編集者として活躍するいっぽう、私生活は荒波にもまれた。84歳の今、岩手山を望む家に一人で暮らし、自然のリズムに合わせて穏やかに呼吸する。





