父の浮かれぶりが気になって

しかし実家は遠く、マスミさんは時間がない。代わりにA子さんが業者との下見や事務作業を引き受けてくれた。だが話を聞くうちに、かなり以前から父親との間で建て替え計画が進んでいたことが見えてきた。

夫の実家を建て替えたばかりだったこともあり、A子さんが連れてくる建築業者の提示する金額も、地方にしては高額に思えた。父親は「A子さんと連絡を取りたい」とメールのやり方を聞いてくるなど、いわば“お花畑”状態。新居での暮らしを思い描いて浮かれている。

次第にマスミさんは冷静になっていった。ヘルパーは24時間態勢で必要だし、何かあったら頻繁に駆けつけなくてはならない。

そしてA子さんのことも気になった。折しも世間では、老人と結婚し、死別しては財産を手に入れる「後妻業」が話題になっていた。マスミさんも友人から実際に“後妻業被害”で実家を失った話を聞いていた。

ついにマスミさんは意を決してA子さんに計画の中止を伝える。

「そうしたら逆に、『あなたね、お父さんの財産を狙ってそういうこと言わないで、お金はお父さんのために使いなさい』と。私は菓子折り持って謝りに行き、それまでの費用だって全部払っていたんですよ」

憤懣やるかたない表情で、ちょっと口調に力がこもった。

以来、A子さんは「雑草が茂っている」「風で庭の木がお隣の窓を叩いていた」などと電話をかけてくるのだった。

父親にも後日、実家の取り壊しを中断したことを伝えた。

「施設の居心地がいいのもあるのでしょうか。父も反発しませんでした。でも、俺が生きている間、家には手を出すな、と。もうこのまま静観するしかないですね」。マスミさんもまた、あきらめモードに入っている。


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