生後3週間の娘に教えてもらったこと
るん ところで、私の名前はお父さんとお母さん2人でつけてくれたんだよね。
樹 うん。森鴎外の「じいさんばあさん」という短編小説から取ったの。かわいい名前だなあと思って、もし将来娘を持つことがあったらこの名前にしようと、ずっと前から決めてたの。
るん 少し変わった名前だから、子どもの頃はイヤだと思った時期もあるけれど、今はとても気に入ってるよ。私が生まれたときのことは覚えている?
樹 もちろん。出産に立ち会ったから、光景までよく覚えているよ。
るん そっか。
樹 看護師さんが僕に「はい」と手渡すんだけど、僕は赤ちゃんなんか抱いたことないから、「落としちゃいけない」ということしか頭になかった。「も、もういいですか」と、すぐに返した。(笑)
るん 落っことさないうちにね。
樹 だいたい僕は子ども好きじゃなかったんだよ。子どもにも好かれなかったし。だから、自分の子どもが好きになれるかどうかほんとに心配だったんだよ。ところが、ほんとに不思議なもので、生後3週間ぐらいのとき、寝ているるんちゃんを見ているうちに、急にこみ上げるような愛情がわいてきた。世の中にこんなかわいいものが存在するだろうか、って。かわいくてかわいくて、涙が出てきた。この子のためなら死んでもいいって。
るん へえー。
樹 僕は母親から「情が薄い」と言われて育ってきたし、ガールフレンドたちからも同じこと言われてきたから、こんなに人を愛することができるとそのとき初めて知った。それが子どもが生まれて一番嬉しかったことかな。
るん ……そうなんだ。知らなかった。生後3週間では私は覚えていないけれど、また新しい共同記憶のアーカイブができたね。
樹 こんなご時世だからなかなか簡単に会えないけれど、体には気をつけてね。
るん うん。お父さんもね!