最後の夜、みんなで近所のインド料理屋に行こうということになった。サンダルばきじゃ入れない、ちょっと高い、夫ともよく行った思い出の店だ。しかし予約しないで行ったから、席がなかった。

それなら、近くのユダヤ料理にするかと言うと、食べたことないからいやだと孫娘が言う。ギリシャ料理はどうだと言うと、孫息子がいやだと言う。コリアン料理はと言うと、元夫がいやだと言う。みんなが慣れてる日本食屋は遠いと言う。カノコは店と家族の間を走りまわっていた。あたしは他人ごとみたいに見ていた。遠くに住んでたまにしか会わないおばあちゃんはそういう立ち位置だ。

結局インド料理屋で待とうということになった。待ってるときカノコがあたしのところに来て「もう、まったく」と吐き捨てるように言った。「なんでわざわざ人前であんなにふきげんな顔をするのかわかんない」。

十三歳の長女のことを言ってるのだった。あたしゃ、悪いなとは思いつつ、思わず噴き出して言いましたよ。

「あんたが十三歳のとき、人前で、まったく同じ態度を取ってたわよ」

あの頃あたしもカノコと同じように毎日感じていて、それであたしは『伊藤ふきげん製作所』を書いたのだった。