グリルにんじんのポークソテー
小学校3年生のとき、学校の帰り道で見つけて気になって、1回入ってみたいって親に頼んで連れてってもらったのが最初です。エビフライとかハンバーグとかいろいろあるんですけど、母親も私もほとんどポークソテーしか頼んだことがありません。
そのポークソテーがまあうまいんですよ。厚切りのロース肉。ブリッとついた脂身。めっちゃいいところを使ってるって子どもの私でもわかりました。そんな肉が、取っ手がついた小っちゃいフライパンみたいな器にのっかって出てくる。醤油ベースで甘くてあめ色のさらっとしたソースがかかってじゅわあああってなりながら。つけあわせはジャガイモとインゲンとコーン。「グリルにんじん」だけどニンジンはありません。あとコーンポタージュとお皿にひらたく盛られたご飯もセットで。肉がしっとりとしてて、脂身はぶりぶりで、甘くてね。
私の目の前で、母親は鼻からすべての息を出す勢いで、
「うんんんまいな」
「うんうんうんうん」
「いやこれ……」
一口食べるごとにぶつぶつ言いながらうまさを噛みしめてました。そっから母親はグリルにんじんのポークソテーにどハマりしてしまいました。私の地元は千葉の超田舎なんですけど、ポークソテーは当時1100円。けっこういい値段ですよね。当時の家計からしておいそれと行ける店じゃぜんぜんなかった。だから「にんじんのポークソテー」は母親の月イチの最大のご褒美になりました。
恋愛とおなじで、人間はなにかを心から好きになったら脳がそのことに支配されちゃうんでしょうね。気が付いたら母親の口癖が「にんじんのポークソテー食いてえな!」になっちゃったんですよ。口癖っていうか怒ったり機嫌が悪くなったりしたときに口に出すおまじないみたいな。
