手元に2億しかない!現金の捻出に奔走
「15億の遺産を相続した」と聞くと、「15億円のお金が転がり込んできた」と思うかもしれませんが、現金なんて全然残りません。なぜなら、相続税は相続したときから10ヵ月以内に現金一括払いしなくてはならないから。期限に間に合わなければ、延滞税が追加徴収されることになります。
僕の場合、相続した資産から控除を引いた相続税評価額が約10億5000万円で、相続税は4億5000万円くらいでした。でも、銀行には2億の預貯金しかなかった。相続税を払うためには、期限までに2億5000万円の現金を捻出する必要があります。
そんな大金、いったいどうやって作ればいいのか。知識がない僕には見当がつきません。相続を放棄して逃げ出したい。でもおばあちゃんと、お墓を守る約束をした。僕はまず、これまでおばあちゃんがお願いしてきた年配の会計士さんに相談することにしました。
この会計士さんの提案は、「建物は売らずにすべての駐車場を売却して、売却代金と預貯金を合わせて相続税にあて、払いきれない部分は延納する」というものでした。実は延納は、破産の危険が大きく、一番とってはいけない方法ですが、無知だった僕が見抜けるはずもありません。そんな方法もあるのか、建物が残せれば家賃収入で相殺できるのかな、などとぼんやり考えていました。
ただ、この会計士さんにはちょっと気になることがあった。最初から僕をバカにした様子で、何を質問しても、「大丈夫、こっちでやるから」と、不動産の管理について何も教えてくれないのです。また、「芸能界なんかでメシは食えないから、東京を引き払って名古屋で稼ぐ準備をしときな」とも言われました。果たしてこの人の言う通りに動いていいのかどうか。
もうひとつ、とある不動産会社の社長さんにも見積もりを出してもらいました。この社長さんの提案は「名古屋の不動産をすべて売却し東京で暮らす」という方法。
別の人の意見が聞きたい、別の方法も考えたい。でも、誰に相談すればいいのか、家で悶々としていたら、たまたま賃貸アパートの営業マンが飛び込みでやってきました。普通ならすぐに断るところですが、この時はとにかく誰かに話を聞いてもらいたかった。すると彼は、自分の会社が顧問としてつき合っている総合事務所を紹介してくれたのです。
この事務所の提案は、「古いマンションを更地にして分譲マンション事業用地として売る」方法でした。僕の気持ちを汲んで「名古屋の家を継ぐことと、東京での芸能活動を両立させる」ことを考えたうえで提案してくれて、それが心に響きました。
この三択から僕は総合事務所を選んだのです。これまで頼んでいた会計士さんは、怒ってそれまでの不動産関係のデータ類を全部持ち去ってしまいました。そのため、すべての土地・建物について、一から洗い直しです。
古いマンションに居住していた人の立ち退き交渉を進めてもらいつつ、どこに売るのかも決めなくてはなりません。騙されないように常に3社から見積もりをとって、メリット・デメリットを比較して。納付期限の日までの10ヵ月間、頭を抱えながら夢中で走り抜けました。だから、期限3日前に相続税を納めることができて、心底ホッとしたものです。