
うまくいかないディール
「世論調査の推移が思わしくない。トランプ氏としては11月の中間選挙に向けて、支持者の熱量がまた戻ってくるようなレトリックを駆使したいのだろう」=中林美恵子氏
「トランプ氏は世論をよく見る大統領だった。選挙でも政治から取り残されていると感じる人たちに届くような訴えをしていたが、最近は感性が鈍っている」=三牧聖子氏
伊藤トランプ氏は11月に中間選挙を迎えます。4月27日のゲスト、中林美恵子・早大教授が指摘したように、トランプ氏は事態を好転させるために色々と模索していますが、空回りしているように見えます。5月に米中首脳会談も行われましたが、驚くような成果は見られませんでした。
飯塚米中首脳会談は今年上半期最大の外交イベントになるはずでした。結果的に習近平国家主席が主導権を握ったことが浮き彫りになりました。トランプ氏は習氏に対して、戦闘終結に向けてイランをもっと説得してほしいと期待していたはずです。米中の貿易についても、米国の利益をもっと引き出したいと考えていました。しかし、いずれもパッとしませんでした。それどころかトランプ氏は会談後、台湾への武器売却を中国との交渉カードにすると明言しました。そもそも、台湾への武器売却は中国に事前に相談するべきものではない。米国がずっと守ってきた基本方針をトランプ氏はあっさり覆してしまいました。
戦後の国際秩序は米国が主導して維持してきましたが、トランプ氏は今回中国を「大国」として、米国と対等の存在として扱ってしまいました。これでは習氏が喜ぶだけです。習氏は米国による国際秩序の終わりを印象付けたといえます。トランプ氏の国家観の欠如と国際秩序の理解不足が米国の力の凋落を招いています。
伊藤トランプ氏の破天荒な言動は相手を揺さぶる戦略なのか、それとも単なる思いつきなのか。どちらなのでしょうか。トランプ氏はディール(取引)が上手だとされてきましたが、ウクライナを侵略するロシアとの交渉も危うさが見られます。
飯塚トランプ氏の言動は戦略なのか、それとも思いつきなのか。米国の識者の間でも意見が分かれています。あり得ない言動を繰り返して、恐怖を抱いた相手から妥協や譲歩を引き出す戦略をマッドマン・セオリーと言いますが、トランプ氏の外交は相手に無理強いするだけで、とても成功しているとは言えないでしょう。そもそも、今回のイランへの攻撃は、イスラエルのネタニヤフ首相に引きずり込まれたトランプ氏の不明と戦略の無さの結果だったといえます。
内政もうまくいかず、トランプ氏は異様ともいえる投稿を繰り返しています。しかし、4月17日のゲスト、三牧聖子・同志社大大学院教授が指摘したように、そうした指導者としての振る舞いはかえって支持者に疑問を広げています。高齢のトランプ氏の健康状態を懸念する声まで出ており、中間選挙に向けて支持者をつなぎとめることができるのかどうか。トランプ氏は分水嶺に立っています。

飯塚恵子/いいづか・けいこ
読売新聞編集委員
東京都出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。1987年読売新聞社入社。 政治部次長、 論説委員、アメリカ総局長、国際部長などを経て現職。

伊藤徹也/いとう・てつや
調査研究本部主任研究員
広島県出身。京都大学総合人間学部国際文化学科卒業。1998年読売新聞社入社。浦和支局、政治部次長などを経て現職