もっともストレスのない理想的な関係は、冷静なコミュニケーションがとれる〈「大人の私」同士〉。〈「自由な子どもの私」同士〉も、自分の気持ちに正直な状態で一緒にいる時間を楽しむことができます。このように、お互いが同じ立場にいる「平行の関係」であれば良好な間柄を築けますし、また〈「保護的な親の私」×「自由な子どもの私」〉のように、教える側と教わる側という関係をお互いが心地よく思い、納得している間柄も問題ないでしょう。
ところが、厳しい「批判的な親の私」が、つい相手に合わせてしまう「順応する子どもの私」に接すれば、居心地の悪い関係性になります。また、双方ともが上からものを言う「批判的な親の私」同士で振る舞う関係も、かなりのストレスに。自分としては平行の関係を望んでいるのに、相手は上下の関係でしか接してくれない状況もつらいものでしょう。
これまでとは違う「私」へ意識的に変える
まずはストレスを感じる相手とコミュニケーションをとっているとき、自分と相手はそれぞれ“5人の私”の誰として振る舞っているのか考えてみてください。ストレスを感じる関係は多くの場合、その“5人の私”の出し方が固定化し、癖になってしまっています。
このように関係性が定着してしまい、お互いに居心地の悪い状況に陥っている場合は、相手とのコミュニケーションにおいて強く表れていた「私」を、別の「私」へ意識的に変えてみましょう。それは、「相手に合わせて自分が変わりましょう」ということではありません。コミュニケーションの方法を変えてみて、相手との関係をよりよい方向へ変化させる可能性を探るということです。
たとえば私は摂食障害や不登校などの悩みを抱えた思春期の患者と接する機会も多いのですが、彼らにとって医者である私は、最初は権威のある、怖い「批判的な親の私」と認識されがちです。親に連れられていやいや診療に来ている彼らは、この場から早く逃れようと「順応する子どもの私」として振る舞い、率直なコミュニケーションを避けようとします。
しかし雑談を通じて、「LINEのこの機能の使い方を教えてくれる?」など「自由な子どもの私」として子ども同士の形で接すると、「お医者さんが、子どもの自分に教わろうとしている」ことにまず驚く。
そこから「自由な子どもの私」同士の平行な関係が作られ、コミュニケーションが少しずつ改善されていくと、「最近ちょっとカリウムが足りないから、もっと多めに食事をとろうね」といった医者としての私のアドバイスも、「保護的な親の私」×「自由な子どもの私」あるいは「順応する子どもの私」という関係で相手に受け入れてもらいやすくなるのです。
《目指したいのはこの関係!》
お互いが“5人の私”のうち“誰”として振る舞うかで、コミュニケーションの質は変わってきます。もっともストレスのない関係は以下の3つ。あなたは家族と、どの関係を結びたいですか?
【1】冷静に意見を交換「大人の私」同士
落ち着いたトーンで、感情を交えず合理的な会話ができる。納得や安心が得られやすい
【2】気のおけない仲良し「自由な子どもの私」同士
フラットな関係でコミュニケーションがとれる。喜怒哀楽を共有し、本音で過ごしやすい
【3】教える側と習う側「保護的な親の私」と「自由な子どもの私」
年齢や立場に関係なく、教える人と教わる人が自分の立ち位置に納得して付き合える